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モグラ類の骨格標本

2015. 2. 24 公開

 

 モグラの骨って変だよねという話題でツイッターで盛り上がり、写真を連投しまくったりしたので、せっかくだからこのページに私のモグラ類標本についてのいろいろをまとめてみようかなという次第である。

 全身が突っ込みどころでできていると言っても過言ではない動物なので、言及したいパーツを一通りアップで撮影したらそこそこな枚数になった。ので、写真も文字も多くなりそうです。

 

 まずこの標本の出来についてだが、正直あまりよろしくない。

 静岡あたりで採集された死体を頂いたのが元になっているのだが、採集の段階で胸部の脊椎・肋骨が折れていたようで、更にエタノールで防腐処理して送ってもらったためか結合組織がもろくなっており、追い打ちにポリデント処理の加減をミスった。結果、頭部・頸部・前肢~胸骨部・胸部・腰部・腰骨・後肢・尾部の8グループぐらいにバラけて、そのうち胸部は脊椎骨と肋骨と肋軟骨がパラパラと単離してギャーという感じだった。肋骨自体に変な癖がついてしまい、骨自体が脆くなっていそうなので深追いすると破損に繋がるな…と思ったので、出来にこだわらずホットボンドで接着してなんとか繋がった、という経緯があった。

 ポージングの反省点は、肩甲骨を垂直に立ててしまったこと、動的であることにこだわりすぎて右後肢を後ろに曲げすぎたこと、お尻を上げすぎたこと。

 送られてきた時の状態。コウベモグラだかアズマモグラだか見分ける方法を知らないので種名はわからないです…

 四肢は大部分が肉に埋まっている。

 まず頭部から。眼窩は非常に小さいが一応あり、頬骨も極細だが一応前後に繋がっている。

歯は凶悪そのものの見た目で、門歯から臼歯に至るまですべて鋭く尖っている。 

 

頭骨は上から見るとラッキョウのような形状でつるっとしている。

 特に目を惹く前肢の形状。手首から先は巨大で堅牢でショベルのようで、強靭な鞘状の爪をすべての指先に備えており、親指側(下側)にあるスクレイパーのような三日月型の骨(鎌状骨というらしい、手根骨なのか種子骨なのかまだ議論があるのだとか)は掘った土を残らず掻き出すのに有用そうである。上腕骨は極端に短く、板状になっている。鎖骨はもはや菱型と言える形状である。肩甲骨は細長く、哺乳類というよりは鳥類のそれに似ている。

 前肢の運動性に関わる一連の骨は、曲げる方向の自由度は低いが、その分強力な掘る動きを可能にするような、そして多量の筋肉を付着させられるような構造になっているようだ。

 一番前の胸骨(で名前はいいのか?)が特異な発達を遂げている。ここも鳥類っぽく、まるで竜骨突起のような張り出しがある。豊富な胸筋を付着・支持することができるだろう。写真にはちゃんと写っていないが、一番前の胸骨から伸びる肋骨と脊椎骨との接続部も特異で、肋骨の接続部はY字に、脊椎骨の接続部は頭尾方向に伸長しており、ひょっとするとこんなずんぐりした体型しときながら首が結構伸びるんじゃないかという構造になっている。前肢が捕食に使えなさそうな形状なので、首から先だけで餌を捕食するために瞬間的に首が伸びたりしないだろうか。是非見てみたい。

 鳥類と似ているとはいえ、一番前の胸骨の左右幅は狭く、一番前の肋骨以外とは接続していない。

 上半身の奇妙さに隠れがちだが下半身も非常に変である。とてもガニ股になっていて不自然に見えるが、これぐらいの角度でないと足がものすごく内股になるし、何より腰の骨の幅が非常に狭いので腹部の臓器を収める空間がなくなってしまう。ただポージングがちょっと変なのは冒頭で書いた通り。

 人間でいうところの足の裏が地面べったりな点はちょっと人間っぽいが、脛骨と腓骨が中間部から末端にかけて融合してY字状になっており、足首を内外に回転させることができない構造になっている。前肢が掘るのに特化しているゆえ、推進力は主に後肢が担うだろうから、可動方向の自由度を捨てて力が分散しないようになっているのだろうか。

 腰の骨は寛骨と仙骨が1つの塊になってしまっている。哺乳類の寛骨は普通、左右で分離しているものだし、仙骨とも一体化はしていないと思うのだが、このモグラは前後とも、関節しているという生易しいものではなく、ガッチリと骨化して繋がっている。腰の骨が一塊にまとまっているところも鳥類っぽい。 

 真上から見るとこんな感じ。どこからどこまでが寛骨で仙骨かよくわからないレベルで骨化融合している。

 

 

 以上、ここがヘンだよモグラ骨格でした。

 ちょくちょく骨格が鳥類と似ているというのを書きましたが、生活スタイルが空中飛行と地中掘削という真逆にも見えるものの体の構造がある意味似てるってのがとても興味深く思いました。

 上記の胸骨や腰の骨のようなパーツもピンポイントで似てるんですが、関節などの自由度を捨ててガチガチに固めてる感じも鳥類っぽい。関節の曲がる方向の自由度が高いというのは、裏を返せば力が分散しやすいということなので、飛ぶとか掘るとか走るとかのある一定の運動に特化するならば、その動きに必要な関節可動域以外は骨で埋めてしまった方が力の効率が良さそうである。ということを踏まえると、鳥類とモグラの骨格がある意味似てるのも筋が通っている…のかもしれない、とか。

 可動性を犠牲にして特化した運動機能を得ている点、また前肢に強力な運動性を持っている点において、モグラと鳥類が似ているのならば、鳥類もまたモグラのような生態に進化しうるのではないか?とか思考が飛躍したんですが、フューチャー・イズ・ワイルドに全く同じ発想のものが居ました。ウズラの末裔がモグラ的生態と形態に進化した未来というのが書かれてました。だからそんなに間違った考えではないのかな…

 

 

 

※さんざん書きまくりましたが、当方脊椎動物の解剖学についての専門教育は受けておりません。ドヤ顔で嘘八百をかましている可能性があります。間違ったことを書いているのを見つけましたら、是非ともツイッターなどで教えてくださると幸いです。よろしくお願いします。

プリアプリダの午後

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